ADHDマンとの生活

ADHDの婚約者と同棲することによってADHDの知見を得てゆく

物を片付けることができない

ADHDマンはよく使ったものをその場に置き去りにする。物を「見えるところに置かないと忘れる」ため、片付けずにそのまま床や箪笥の上に放置してしまう。また、物を使うときに「使う」というタスクで頭がいっぱいになり、使ったあとのことをあまり考えていない。そして使い終わったあとはまた別のことに気を取られて、結果的に物が放置されるのだ。

 

例1:箪笥の上に置かれ続ける物

ADHDマンに[deathtaroの婚約者]というジョブタイトルがつく前、彼は今の家で一人暮らしをしていた。何度か訪れては定期的に片付けをしていたが、箪笥の上はいつ見ても本やホコリかぶった謎の電子機器や日付が2015年くらいのレシートが積み上げられていた。婚約して彼の家で同棲をはじめてからまず始めに本棚の購入を提案した。箪笥の上は物置ではないこと、大量にある本を本棚に移動させるだけでだいぶスッキリする、などの理由を挙げ、同意を得てから折半で購入をした。それからというもの遊びにきた同僚に「え!すごくきれいになった」と言われるほどになり、箪笥の上はいくつかの物(卓上カレンダーやマスターソードの置物など)が定住するのみになって、積み上げられていた紙類や雑貨はスッキリとなくなった。

しかし、時間とともにまた箪笥の上が無秩序になってきた。

はじめはTシャツ一枚だった。次は交通違反に関する書類だった。その次は会社の社員証。

どうしてここに置いてるんですか?と問い詰めて発覚した婚約者氏の言い分はこうだ。
服は「まだ着れるから」、書類は「来週持っていかなければならないから」、社員証は「明日も持っていくから」。深く掘り下げていくと、これらに共通する意識は「見えるところに置かないと忘れるから」であった。たとえば、わたしが提示した以下はすべて同じような理由で却下された:
・「その服また着るならクローゼットにかけておけば?」→ 婚約者氏「クローゼットに入れると見えないから忘れちゃう」
・「書類はファイルにまとめてデスクか本棚にしまっておけば?」→ 婚約者氏「他の物に埋もれてしまい見えないから忘れちゃう」
・「社員証はしまえば?」→婚約者氏「一番見えるところにおかないと明日会社に持っていく忘れちゃう」

つまり婚約者氏は箪笥の上が一番目につくので(高さ的にもちょうど目線の位置)使わなければならないものはそこに置くことで常に視界に入れたいのだ。これは彼なりの「忘れない」方法ではあるのだが、そうしているうちに箪笥の上に物が増えてすぎてもはやお目当ての物が埋もれて見えなくなる…という本末転倒な事態になってしまう。非常によろしくない。

例2:置き去りにされた文房具

最初「置き去りにされたメジャー」と書いたのだが、メジャーに限らずハサミやペンもそうだよなと思い「置き去りにされた文房具」と書いた。しかし考えてみるとキッチンで料理している時も使い終わったキッチン道具を戻さないなと思ったが、もはやキリがないのでひとまず「文房具」の例でおさめておく。

ある日婚約者氏が「ねえメジャー*1どこだっけ?」と聞いた。何かを測りたいらしい。メジャーはいつも同じ場所に置いてあるのでわたしはすぐにわかった。隣の部屋にいたので「リビングの本棚のところにある黒い箱の中に入ってるよ」と声をかけたら、しばらくして「あった〜」という返事が返ってきた。その後家具の大きさなどを測っていたようだが、数分後に見たらメジャーを床に置き去りにして彼はパソコンを見ていた。何か調べ物をしてまた使うのかと思って放置したら10分が経ち15分が経ち、挙げ句婚約者氏は YouTube でゲーム実況動画を観始めたのだ。
「ねえメジャーは?使い終わったの?」と聞いたら、一瞬「なんの話?」と言わんばかりのキョトン顔をしてから「使い終わったよ!」と元気に返事が返ってきた。わたしが「戻さないの?」という問いをしたらようやく気がついたみたいで「あ〜 戻す戻す」と言い、最後に「あとで」と付け加えた。ADHDマンの「あとで」という発言は大学時代の友達が言う「行けたら行く」程度、或いはそれ以下の信憑性しかない。「あとでじゃなくて今戻そう?」と諭したらようやく YouTube 動画を停止してメジャーを戻しに行った。

ちなみにこのやり取りは2回目であった。以前も同じようなことが起こり、自分でメジャーを戻しに行ったのに、今日また「どこだっけ?」と聞いてきたのである。

詳しく聞いてみると、どうやらふたつの問題点があった。

  • 物がどこにあるのか覚えられない(なので戻すべき場所もパッと出てこない)
  • 物を片付けるという発想がない / あっても頭から抜けてしまう

婚約者氏にとってそもそも物の場所を覚えるのは非常に困難らしく、重要なものでさえもどこに置いたのかを忘れてしまうことが多々ある(パスポートが見つからない!と旅行当日に慌てだすところも飽きるほど見た)。さほど重要ではないメジャーの置き場所など脳が一瞬でポイ捨てしてしまうようで、毎回わたしに教えてもらわないと探し出すことができない。片付けるときも「えーと…これどこだったっけ?」と戻し場所を確認してくることも珍しくない。

また、ADHDの人の多くは「ワーキングメモリー*2」という能力が弱いようである。短期記憶とは異なり、短い期間に情報を保持しつつ何かの動作や思考を処理することである。【メジャーを出す→メジャーを使用する→メジャーを戻す】 という一連の行動は、婚約者氏の思考では【メジャーを出す】【メジャーを使用する】【メジャーを戻す】というまったく異なる3つの動作として登録される。その上ワーキングメモリーが弱いため、【メジャーを使用する】という動作が終わってもその次に発生するべき【メジャーを戻す】という動作が記憶に保持されておらず、忘れてしまう確率がぐっと上がるのだ。

 

アプローチ方法

この問題を解決するべく、ふたつのアプローチをとってみた。

1. 流れをセットにする

上記の例で言うと、【メジャーを出す→メジャーを使用する→メジャーを戻す】 という一連の動作をセットで考えるようにマインドセットを矯正してみようとした。3歳児に教えるかのようにすごくシンプルに噛み砕いて説明をしようと試みたが、わたし自身にとっては脳が上手に3つのアクションを紐づけてくれることを、脳が自動的に紐づいてくれないADHDマンに説明するのは非常に困難だった。最終的に「理解はできるけど、実行はできない」と言われてしまい、まあ脳の働きをどうこうしろというのは無理なので、「流れをセットにする」ということを教えるのは失敗に終わった。とはいえ、「使ったら片付ける」というのは基本的には同時に起こるべきであることは理解してもらえたので、収穫がなかったわけではない。

2. 物に住所があることを教える

詳しくは忘れてしまったが、何かの片付け本で「物に住所がある」というコンセプトについて読んだことがある。物に住所があるということは「その物は常にそこに置く」という意識に繋がり、結果的に「置き場所を忘れない」「戻し忘れない」という効果に繋がる。
この考え方をベースに婚約者氏に「メジャーの住所は黒い箱の中」と伝えたが、これもまた上記のアプローチ1と同じく「コンセプトは理解できるけど、やっぱり住所を忘れちゃう」ということだった。住所があるのはわかるが、その住所を毎回忘れてしまうので、何度繰り返しても脳内住所録に「メジャーの住所」という記憶が定着しないようだった。そもそもそこで躓いてしまうとその後に続く「物を住所に返す」という行動も失敗に終わるので、このアプローチもまた解決策には至らなかった。

 

現在の解決法:言い続ける

残念ながらADHDマンが自主的に片付けをしてくれるような魔法の解決法は今のところ解明されておらず、わたしが「○○片付けて」「○○戻して」と声をかけ続けるのが一番成功率が高い。言えば本人もその物を意識し始めるので、定期的に声がけをすることによって「片付ける」というタスクを遂行させることができる。ただ、声がけを怠るとやはり放置されてしまうので、目につく度に言わないといけないのが少々難しいところである。「どうして覚えられないの!」と怒ってしまっても何も解決にならないので、なるべく心を無にして淡々と指摘だけするように心がけているところだ。

*1:巻き尺

*2:作業記憶,作動記憶

優先順位を正しくつけられない

ADHDマンと暮らしていると「やらねばならないことが後回しにされる」「優劣をつけると実際はそこまで緊急度の高くないものがなぜか優先される」というようなことがほぼ毎日発生する。これらはADHDマンの頭の中では「自分にとっては大事だから」「今やらないと忘れるから」などの理論が展開されているからであり、わたしとADHDマンの間では少々行動原理が食い違っているため(大きい枠組みで見た全体の重要度 vs 今その瞬間の本人の重要度)、説明をしてもなかなか理解してもらえないのが難しいところだ。 

 

例1:やると言ったことを放棄して別のことを優先しに行く

今日は8時半頃に起床した。婚約者氏もわたしも9時半から仕事の会議が入っていたのでその前に朝ごはんを済まそうと思い、「朝ごはん食べる?」と婚約者氏に聞いた。「作ってくれるの?」と返されたが、なんだかひとりで作るのは嫌だと思い(婚約者氏は朝に弱いので、朝食は基本的にわたしがひとりで作っている)、一緒に作らないかと聞いてみた。いいよ、と彼。ベッドから這い出し、歯を磨き、いざキッチンへ向かうが、キッチンに足を踏み入れた瞬間、彼が「あ、ちょっとイベント関連*1のことしてきていい?」と言い、返事も待たずに部屋に戻っていってしまった。

いつ戻ってくるのかわからないのでとりあえず朝食の準備をはじめる。テーブルメイクをし、湯を沸かし、紅茶を淹れ、パンをトースターにぶちこみ、サラダほうれん草を洗い、ベーコンをちょうど焼き終わるタイミングで戻ってきた。あとは目玉焼きを作るのみで、もうほぼほぼ朝食は完成したといっていいタイミングだ。戻ってきた婚約者氏は昨夜食洗機にかけておいた食器を棚に戻し始めた。わたしは目玉焼きを仕上げ、皿に盛り、嗚呼結局ひとりで作ってしまったな、と思った。

まずは食洗機のものを戻してくれたことには素直に感謝。
しかしだ、一緒に作ろうという話をしてキッチンまで行ったのに、そこから踵を返して他のことをやりに行くのはいただけない。イベントの事務処理が30分遅れたからって誰かが文句を言うのだろうか?イベントに致命的なのだろうか?答えはノーだ。

行動が引き起こす不満度・ストレス度を比べてみよう。
イベントの事務処理を優先しないことによってうまれる参加者の不満は正直に言えばほぼ皆無だ。時差があるので、この事件が起きた時は日本時間だと深夜2時であり、見ている人は極端に少ない。
対して、「一緒にやろう」と同意したことを1ミリも実行せずに放棄することによってうまれる同居人(この場合わたし)の不満。ひとりで食事を作るのはなんだか不服だったので一緒にやろうという同意を得たのに、そのわずか数分後に破られる失望感。彼が優先しに行ったことは同居人(わたし)にとってはさほど重要でもないもの、と言ってしまったら暴論になるが、それは客観的に見ても優先度は低いものでもあったがゆえに、家事を押し付けられた気分になってしまった。

不満度を比べてみると、後者のほうが圧倒的に高いような気がする。ここで「君がひとりで朝ごはんを作ればいいじゃん」という言い分は論点からずれているので却下させていただく。この不満度比較の話を持ち出した理由は、「どちらがよりダメージが大きいのか?」も優先度決めに貢献しているからである。わたしなら、よりダメージの少ないほうを後回しにする。しかし婚約者氏はADHD特有の「目の前のことに気を取られる」という現象により、自身の選択が及ぼす影響の比較を用いた優先度決めをしなかったのだ。

今回の件は、「目の前のことに気を取られる」のほかに「今やらないと忘れるから」という原理も加わる。

たとえばわたしはやらなければいけないタスクと、その重要度と、残されている時間を計算して、ある程度の優先順位をつけてから上のほうからこなしていく。
ADHDマンである婚約者氏の場合は、優先順位のトップの原理がいつも「今やらないと忘れるから」なので、その時に思いついたタスクをその場でやらないと気が済まないらしい。もちろん、これが良い方に作用することもある。例えば大事な書類を提出しなければならない場合、「今やらないと忘れるから!」と優先的に行うケースもある。しかし今回のように、その他のものを投げ出し「本人にとっては大事かもしれないけど全体で見るとそこまで優先度は高くないはずのもの」を優先しに行ってしまう場合もあるから厄介なのだ。

 

例2:タスクを完遂せずに別のことを優先しに行く

以前買い物に行った帰りのこと。冷凍食品や冷蔵必須(牛乳など)の食品も買い込み、帰宅した。婚約者氏が買い物袋を運んできてくれたので、わたしが玄関のドアを開け、彼が脱いだ靴を直していた。婚約者氏が買い物袋をキッチンまで運び、冷蔵庫にしまってくれるものだと思いこんでいたわたしは、靴を直した後に振り向いて驚いた。買い物袋がキッチン横のダイニングテーブルの上に置かれたままだったのである。彼の姿はどこにもない。部屋を覗き込めば、また上記のイベント関係の事務処理を始めていた。

わたしの思考回路だと「キッチンまで持って行く→冷蔵・冷凍品があるのは把握している→今冷蔵庫に入れなければ」という流れになる。しかしそうではなかったらしい婚約者氏に、とりあえず「これ冷蔵庫に入れるの手伝ってくれない?」と声をかけた。それなりの買い物量があったのでふたりでやれば格段に早いし、何より「帰ってきたら冷蔵庫に入れる」という行動パターンを覚えさせようとしたからである。しかし返ってきた返事は「あとで」だった。

非常に残念に思った。食品の買い出しから帰ってきて冷蔵庫に入れずに放っておいてやることが事務処理なのか。それも緊急度のない事務処理であり、わたしの中では牛乳を冷蔵庫に入れるほうがよほど緊急度が高い。なぜ「あとで」があまりよろしくない返事だったのかを説明しようと、次のことを伝えた。
日々の業務をカテゴリ分けするならば、非営利ゲームイベント運営は「娯楽」であり、買い物およびにその整理は「生活」になる。娯楽カテゴリと生活カテゴリを比べると、生活カテゴリのほうがより重要なタスクを含んでいる場合が多いので、生活カテゴリを優先してほしいと。
自分なりにうまく言語化できたように思えたが、ADHDマンにとってはそもそも非営利ゲームイベント運営は娯楽ではなかったらしい。娯楽じゃない、と返事をする婚約者氏を見て頭を抱えたくなった。なるほど、そこからなのか。娯楽かどうかを突き詰めるとまた長くなってしまうので、またアプローチを変えてみる。「参加者に迷惑がかかるならともかく、5分10分遅れただけでは何の影響も及ぼさないタスクである」という旨を説明して終わった。

 

優先順位のしわ寄せを食らう現状

ADHDマンは上記でも説明した通り「目の前のことに気を取られる」や「今やらないと忘れる」などの理由から優先順位をつけられない、あるいはつけてもその通りに実行できない、などの現象が起きる。一人暮らしならまだ良いものの、同棲をしているとどうしても周り(この場合わたし)が被害に遭ってしまう。重要なタスクを(主に家事関連)のことを後回しにすることにより、そのしわ寄せを受けるのはすべてわたしである。他に色々やらなければならないことがあるのに、言い方は悪いが一種の尻拭いにリソースを割かなければいけないことは身体的疲労につながる。加えて、本人はやりたいことを優先してケロッとしているのにわたし「だけ」がモロに弊害を受けるのも精神的ダメージになりうるのだ。普段からADHDマンと暮らすための様々な配慮をしている上にこのように繰り返しリソースを割かれると、どうしてもHP/MPが削られてしまいストレス値も上がってゆく。

ADHDマンがタスクを優先しなくても、もうすべてを放っておく、あまり気にしないようにする、などの方法もあるが、残念ながら現実的ではない。なぜなら日常生活で優先順位を決めて行動しないといつも最後に時間が足りなくなって結局タスク漏れが発生したり、準備が不十分でやろうと思っていたことができなかったりするのだ。時間は限られているので大事なことを先にこなしていくしかないのだが、その優先順位決めを放棄あるいはロジカルではない順位でタスク処理をすると、どうしても足りないものが出てきてしまう。わたしはそれらを前もって脳内計算して時間内にできる最大限のことをやっていくのがベストだと思って動いているので、ADHDマンができないからといって無視したら生活リズムは崩れ、やりたいこと・やらなければいけないことを完遂させることができない。

 

現在の解決法:その都度指示を与える

今のところの解決法はその場で指示を与えることかもしれない。理屈を説明してもいまいちピンとこないみたいなので、何か別のことをしようとすればその場で「これを先にやってくれませんか?」とお願いをする。別のことをしていいかと聞かれたら「それよりもこっちを先にやってほしい」と伝える、など。嫌だと反発された場合はまた複雑になってくるが、わたしと婚約者氏の場合はこれで少しは(完全によくなることはおそらく無いので…)凌げるような気がする。

ここで重要なのは命令形にならないように気をつけることである。誰しも恋人や配偶者に命令されるのは好きではないだろうし(そういう趣味ならともかく)、わたしも命令されるのは嫌なので、「やってほしい」というような言い方がベストかと思われる。また、心に余裕があれば理由も添えるといいかもしれない。「牛乳がぬるくなるから今入れよう」などと一言あれば、ADHDマンも多少は前向きな気持ちで取り組んでくれるかもしれない。

*1:*婚約者氏は現在とあるゲームの長期オンラインイベントの主催をしていて、運営の手伝いは数名いるものの、事務的処理の大半を彼がこなしている