ADHDマンとの生活

ADHDの婚約者と同棲することによってADHDの知見を得てゆく

優先順位を正しくつけられない

ADHDマンと暮らしていると「やらねばならないことが後回しにされる」「優劣をつけると実際はそこまで緊急度の高くないものがなぜか優先される」というようなことがほぼ毎日発生する。これらはADHDマンの頭の中では「自分にとっては大事だから」「今やらないと忘れるから」などの理論が展開されているからであり、わたしとADHDマンの間では少々行動原理が食い違っているため(大きい枠組みで見た全体の重要度 vs 今その瞬間の本人の重要度)、説明をしてもなかなか理解してもらえないのが難しいところだ。 

 

例1:やると言ったことを放棄して別のことを優先しに行く

今日は8時半頃に起床した。婚約者氏もわたしも9時半から仕事の会議が入っていたのでその前に朝ごはんを済まそうと思い、「朝ごはん食べる?」と婚約者氏に聞いた。「作ってくれるの?」と返されたが、なんだかひとりで作るのは嫌だと思い(婚約者氏は朝に弱いので、朝食は基本的にわたしがひとりで作っている)、一緒に作らないかと聞いてみた。いいよ、と彼。ベッドから這い出し、歯を磨き、いざキッチンへ向かうが、キッチンに足を踏み入れた瞬間、彼が「あ、ちょっとイベント関連*1のことしてきていい?」と言い、返事も待たずに部屋に戻っていってしまった。

いつ戻ってくるのかわからないのでとりあえず朝食の準備をはじめる。テーブルメイクをし、湯を沸かし、紅茶を淹れ、パンをトースターにぶちこみ、サラダほうれん草を洗い、ベーコンをちょうど焼き終わるタイミングで戻ってきた。あとは目玉焼きを作るのみで、もうほぼほぼ朝食は完成したといっていいタイミングだ。戻ってきた婚約者氏は昨夜食洗機にかけておいた食器を棚に戻し始めた。わたしは目玉焼きを仕上げ、皿に盛り、嗚呼結局ひとりで作ってしまったな、と思った。

まずは食洗機のものを戻してくれたことには素直に感謝。
しかしだ、一緒に作ろうという話をしてキッチンまで行ったのに、そこから踵を返して他のことをやりに行くのはいただけない。イベントの事務処理が30分遅れたからって誰かが文句を言うのだろうか?イベントに致命的なのだろうか?答えはノーだ。

行動が引き起こす不満度・ストレス度を比べてみよう。
イベントの事務処理を優先しないことによってうまれる参加者の不満は正直に言えばほぼ皆無だ。時差があるので、この事件が起きた時は日本時間だと深夜2時であり、見ている人は極端に少ない。
対して、「一緒にやろう」と同意したことを1ミリも実行せずに放棄することによってうまれる同居人(この場合わたし)の不満。ひとりで食事を作るのはなんだか不服だったので一緒にやろうという同意を得たのに、そのわずか数分後に破られる失望感。彼が優先しに行ったことは同居人(わたし)にとってはさほど重要でもないもの、と言ってしまったら暴論になるが、それは客観的に見ても優先度は低いものでもあったがゆえに、家事を押し付けられた気分になってしまった。

不満度を比べてみると、後者のほうが圧倒的に高いような気がする。ここで「君がひとりで朝ごはんを作ればいいじゃん」という言い分は論点からずれているので却下させていただく。この不満度比較の話を持ち出した理由は、「どちらがよりダメージが大きいのか?」も優先度決めに貢献しているからである。わたしなら、よりダメージの少ないほうを後回しにする。しかし婚約者氏はADHD特有の「目の前のことに気を取られる」という現象により、自身の選択が及ぼす影響の比較を用いた優先度決めをしなかったのだ。

今回の件は、「目の前のことに気を取られる」のほかに「今やらないと忘れるから」という原理も加わる。

たとえばわたしはやらなければいけないタスクと、その重要度と、残されている時間を計算して、ある程度の優先順位をつけてから上のほうからこなしていく。
ADHDマンである婚約者氏の場合は、優先順位のトップの原理がいつも「今やらないと忘れるから」なので、その時に思いついたタスクをその場でやらないと気が済まないらしい。もちろん、これが良い方に作用することもある。例えば大事な書類を提出しなければならない場合、「今やらないと忘れるから!」と優先的に行うケースもある。しかし今回のように、その他のものを投げ出し「本人にとっては大事かもしれないけど全体で見るとそこまで優先度は高くないはずのもの」を優先しに行ってしまう場合もあるから厄介なのだ。

 

例2:タスクを完遂せずに別のことを優先しに行く

以前買い物に行った帰りのこと。冷凍食品や冷蔵必須(牛乳など)の食品も買い込み、帰宅した。婚約者氏が買い物袋を運んできてくれたので、わたしが玄関のドアを開け、彼が脱いだ靴を直していた。婚約者氏が買い物袋をキッチンまで運び、冷蔵庫にしまってくれるものだと思いこんでいたわたしは、靴を直した後に振り向いて驚いた。買い物袋がキッチン横のダイニングテーブルの上に置かれたままだったのである。彼の姿はどこにもない。部屋を覗き込めば、また上記のイベント関係の事務処理を始めていた。

わたしの思考回路だと「キッチンまで持って行く→冷蔵・冷凍品があるのは把握している→今冷蔵庫に入れなければ」という流れになる。しかしそうではなかったらしい婚約者氏に、とりあえず「これ冷蔵庫に入れるの手伝ってくれない?」と声をかけた。それなりの買い物量があったのでふたりでやれば格段に早いし、何より「帰ってきたら冷蔵庫に入れる」という行動パターンを覚えさせようとしたからである。しかし返ってきた返事は「あとで」だった。

非常に残念に思った。食品の買い出しから帰ってきて冷蔵庫に入れずに放っておいてやることが事務処理なのか。それも緊急度のない事務処理であり、わたしの中では牛乳を冷蔵庫に入れるほうがよほど緊急度が高い。なぜ「あとで」があまりよろしくない返事だったのかを説明しようと、次のことを伝えた。
日々の業務をカテゴリ分けするならば、非営利ゲームイベント運営は「娯楽」であり、買い物およびにその整理は「生活」になる。娯楽カテゴリと生活カテゴリを比べると、生活カテゴリのほうがより重要なタスクを含んでいる場合が多いので、生活カテゴリを優先してほしいと。
自分なりにうまく言語化できたように思えたが、ADHDマンにとってはそもそも非営利ゲームイベント運営は娯楽ではなかったらしい。娯楽じゃない、と返事をする婚約者氏を見て頭を抱えたくなった。なるほど、そこからなのか。娯楽かどうかを突き詰めるとまた長くなってしまうので、またアプローチを変えてみる。「参加者に迷惑がかかるならともかく、5分10分遅れただけでは何の影響も及ぼさないタスクである」という旨を説明して終わった。

 

優先順位のしわ寄せを食らう現状

ADHDマンは上記でも説明した通り「目の前のことに気を取られる」や「今やらないと忘れる」などの理由から優先順位をつけられない、あるいはつけてもその通りに実行できない、などの現象が起きる。一人暮らしならまだ良いものの、同棲をしているとどうしても周り(この場合わたし)が被害に遭ってしまう。重要なタスクを(主に家事関連)のことを後回しにすることにより、そのしわ寄せを受けるのはすべてわたしである。他に色々やらなければならないことがあるのに、言い方は悪いが一種の尻拭いにリソースを割かなければいけないことは身体的疲労につながる。加えて、本人はやりたいことを優先してケロッとしているのにわたし「だけ」がモロに弊害を受けるのも精神的ダメージになりうるのだ。普段からADHDマンと暮らすための様々な配慮をしている上にこのように繰り返しリソースを割かれると、どうしてもHP/MPが削られてしまいストレス値も上がってゆく。

ADHDマンがタスクを優先しなくても、もうすべてを放っておく、あまり気にしないようにする、などの方法もあるが、残念ながら現実的ではない。なぜなら日常生活で優先順位を決めて行動しないといつも最後に時間が足りなくなって結局タスク漏れが発生したり、準備が不十分でやろうと思っていたことができなかったりするのだ。時間は限られているので大事なことを先にこなしていくしかないのだが、その優先順位決めを放棄あるいはロジカルではない順位でタスク処理をすると、どうしても足りないものが出てきてしまう。わたしはそれらを前もって脳内計算して時間内にできる最大限のことをやっていくのがベストだと思って動いているので、ADHDマンができないからといって無視したら生活リズムは崩れ、やりたいこと・やらなければいけないことを完遂させることができない。

 

現在の解決法:その都度指示を与える

今のところの解決法はその場で指示を与えることかもしれない。理屈を説明してもいまいちピンとこないみたいなので、何か別のことをしようとすればその場で「これを先にやってくれませんか?」とお願いをする。別のことをしていいかと聞かれたら「それよりもこっちを先にやってほしい」と伝える、など。嫌だと反発された場合はまた複雑になってくるが、わたしと婚約者氏の場合はこれで少しは(完全によくなることはおそらく無いので…)凌げるような気がする。

ここで重要なのは命令形にならないように気をつけることである。誰しも恋人や配偶者に命令されるのは好きではないだろうし(そういう趣味ならともかく)、わたしも命令されるのは嫌なので、「やってほしい」というような言い方がベストかと思われる。また、心に余裕があれば理由も添えるといいかもしれない。「牛乳がぬるくなるから今入れよう」などと一言あれば、ADHDマンも多少は前向きな気持ちで取り組んでくれるかもしれない。

*1:*婚約者氏は現在とあるゲームの長期オンラインイベントの主催をしていて、運営の手伝いは数名いるものの、事務的処理の大半を彼がこなしている